Home 小説 - StoriesA TRIP 明晰な旅 – A TRIP 6

明晰な旅 – A TRIP 6

by lisa shouda

それだけのこと – A TRIP 5 のつづき

「体験は充分しましたね」

計画したことも しなかったことも
体験はもう充分しました
つまり旅を始めた目的は達成したのです
だから
もう帰ったってよいのです


全てを思い出した旅人はこうも思いました


  なーんだ

  この地で出逢いや築いたものが
  重なってゆくに連れて
  ふるさとのことを忘れようとしていたけれど
  何一つ忘れずにこの地を楽しむ旅の仕方もあるのかもしれない

  それに
  旅先からふるさとの仲間たちと連絡だってできる
  (すっかり忘れていた!)

  それにそれに
  旅のガイドたちが片時も離れずに見守ってくれている
  (これもすっかり忘れていた!)


  自分は旅をしているのだと
  明晰に旅はできる

  なーんだ

  かんたんだ

  かんたんでよかったんだ



チケットの判読できない帰りの日付と時刻は
わざわざ問い合わせなくたって
旅人が望めばその瞬間に思い出せるのです

帰りの便が出発する日までは
まだ時間があります



旅人は仲間に話してみようと思っています

  塔を作って石を積み上げる仕事がずいぶんうまくなった
  今度は高く高くそびえさせるかわりに
  もっと低い…
  そうだな
  陽の高い季節に日差しを優しく遮り
  頬をさす風が厳しい季節には暖かく保つ
  草花の種が休んだらそっと芽吹くような
  そんな建造物をつくらないか

  絶えることなくこの地にやってきてはつかの間とどまり
  そして帰る仲間のために
  ちょうど君や自分と同じ仲間のために


旅人の仲間のひとりがきっとこう応えるでしょう
「そりゃ鳥たちはきっとただの丘だと信じるだろうな」


A TRIP – 終

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