それだけのこと – A TRIP 5 のつづき
「体験は充分しましたね」
計画したことも しなかったことも
体験はもう充分しました
つまり旅を始めた目的は達成したのです
だから
もう帰ったってよいのです
全てを思い出した旅人はこうも思いました
なーんだ
この地で出逢いや築いたものが
重なってゆくに連れて
ふるさとのことを忘れようとしていたけれど
何一つ忘れずにこの地を楽しむ旅の仕方もあるのかもしれない
それに
旅先からふるさとの仲間たちと連絡だってできる
(すっかり忘れていた!)
それにそれに
旅のガイドたちが片時も離れずに見守ってくれている
(これもすっかり忘れていた!)
自分は旅をしているのだと
明晰に旅はできる
なーんだ
かんたんだ
かんたんでよかったんだ
チケットの判読できない帰りの日付と時刻は
わざわざ問い合わせなくたって
旅人が望めばその瞬間に思い出せるのです
帰りの便が出発する日までは
まだ時間があります
・
・
・
旅人は仲間に話してみようと思っています
塔を作って石を積み上げる仕事がずいぶんうまくなった
今度は高く高くそびえさせるかわりに
もっと低い…
そうだな
陽の高い季節に日差しを優しく遮り
頬をさす風が厳しい季節には暖かく保つ
草花の種が休んだらそっと芽吹くような
そんな建造物をつくらないか
絶えることなくこの地にやってきてはつかの間とどまり
そして帰る仲間のために
ちょうど君や自分と同じ仲間のために
旅人の仲間のひとりがきっとこう応えるでしょう
「そりゃ鳥たちはきっとただの丘だと信じるだろうな」
A TRIP – 終