Home 小説 - StoriesA TRIP 心は2つをやってのけた – A TRIP 4

心は2つをやってのけた – A TRIP 4

by lisa shouda

つかんだ手はいずれ離す – A TRIP 3 のつづき


大事なチケットだからと
丁寧にそこへしまっておいたのでした

そのポケットを
忘れようとしていたのでした

帰りのチケットを見ると思い知らされるものね、
いつかは帰らなければならないこと

くしゃよれチケットは
擦れに擦れ
印字の日付も時刻も判読できないけれど
この予約データはシステム上
予定どおりに便は出発します

それに
いつ帰るのかは、この旅をはじめる前に決めたのです
じぶんが決めて予約をしたのです

わあ
忘れていたなんてね

旅人が心がやってのける2つを知る日となりました

ひとつ。

ほんの鼻先に
この惑星いちの山が延々寝そべっていようと
  見たくない 見たくない 見たくない
見ないと決めてしまえば
あら不思議
見えなくなるもんなのです


  忘れたい 忘れたい 忘れたい
繰り返し自分に忘れようと暗示をかけたなら
忘れようと決めたなら
できるもんなのです

でも
いま
思いだしました
じぶんで決めて出た旅だということ
旅に出たらいつかは帰るのだということ


ふたつ。

「帰る」ことを想うと
どろりとおそうあの こわい が
頭から足先へ抜けていくのを感じましたが


こわい は受信機が機能しなくてはまるで意味のない信号で
こわい を知覚していたじぶんは信号にチューニングが合った受信機で
受信機に取り付けられたアンテナを
つい、とつつけば信号は空を平然と進む
それだけのことでした

旅人は こわい の信号を受信しなくたって別によいのでした

誰も聴く者のいない森で
倒れる木の音でした



旅人は
この旅を始めた理由も
思い出しました


A TRIP 5 へつづく

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