Home 小説 - StoriesA TRIP 芸術的な不自由と、再会 – A TRIP 2

芸術的な不自由と、再会 – A TRIP 2

by lisa shouda

旅をしてきます – A TRIP 1 のつづき

さて、目的の地につきました


ついたばかりの頃
時差で気分はすぐれなかったし
こさえた荷物を背負って歩くのは
鉄の玉をお腹に溜め込んだみたいで
 まあ、夜な夜な泣いたよね!
(奇妙なルールだけれど、この地へ訪れる旅行者はほとんど全てが指定の荷物をこさえることになっているのだから仕方がない)

彼らのコミュニケーションだって
故郷のそれとは異なるわけです

言語に慣れるまでも
頼んでいたお世話役は根気強く、100回目だろうと単語を繰り返し発音してくれたのでした

(前回の旅では夜叉のようなお世話役に当たったけれど、今回はほとんど女神のようなお世話役を頼めたのだ!
そうそう!名誉のためにいっておくけれど、じぶんはそんなに物覚えは悪くないほうです

どうしたってこんなまどろっこしいコミュニケーション方法を採用したんだ?って、故郷の仲間に連絡して笑います
なんせそれを訴えようにも伝えることすらできないんだから!それこそ笑いもの)

芸術的なまでの不自由さがまさにこの旅の醍醐味なのだと
たまに思い出しては
この地のあらゆるあれこれに適応します

はじめはおぼつかなかったけれど

せっかくだものね
体当たり!

失敗なんて数限りなく
ありがたいことに
この地を長いこと旅している人々が
親切に教えてくれたりしたので
「旅の作法」なるものも次第に身につけてゆきました
この地についたばかりの旅人に
じぶんが教えることさえやってのけるようになりました

計画してきた目的地をひとつ、またひとつとまわり
寄り道に道草

体験イベントはどれも”イベント”の名にふさわしく
「世紀のトリックスターショー」に行った時なんかは
腹がよじれて胴体が3回転してしまうんじゃあないかと心配になるほど大笑いしたり
「バーチャル・クラッシュ・カー」ではテルマ&ルイーズばりに全速力で空中に突っ込む車の運転席にいるハラハラ感を味わえたり


つまるところ
あまりに満喫し
日々の体験にいそがしく

いつしか
じぶんが旅をしていることを忘れてゆきました
そう
いつか帰ることになっていると
夢枕にささやく声があったけれど


もともと住んでいた家が
どんなところだったのか
あたたかい仲間たちのことも
だんだん
ぼんやりとしか思いだせなくなり

この旅がいつまでも続けばいいと願いました
強く願いました



約束の友にもふたたび逢えました
昔の記憶とは控えめにいっても似てはいない容貌で

  格好はどんなでも
  瞳は変わらないから
  きみとわかったよ



それに
スケジュール張に約束の場所と時間を
きちんと記入していたからよかったものの
旅の体験にいそがしく
待ち合わせを忘れるところでした

ひとしきり
これまでの旅がどんなだったか
お互いに話をしたら

この先は
ふたり伴に旅をしようと
そう決めました




A TRIP 3 へつづく

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