Home 小説 - StoriesA TRIP つかんだ手はいずれ離す – A TRIP 3

つかんだ手はいずれ離す – A TRIP 3

by lisa shouda

芸術的な不自由と、再会 – A TRIP 2 のつづき


旅を伴にするようになって
景色は変わり

ひとりで旅をしていたしばらくとは変わった新たな景色の中で
ひとりで旅をしていたしばらくとは異なるよろこびや大変さも体験しました

食べるものも飲むものもふたりで分け合い
目を見合わせてやわらかに微笑み

まあ、ふたりの意見がいつだって一致するわけはなく
ぎざぎざの感情でけずりあうばかなマネもしました
ほとんどの時間はいたわり合わずにいられないふたりの間に何かが深まってゆくようでした
これを愛情だなんて名付けてもよいのかもしれません

文字どおり、手をとり合って歩みました



ところで。

この旅は、どれだけ長く続けたとして
「旅」である性質上、いつしか必ず「帰る」のだけれど
つまり
この地を離れるということで
この地で出逢った人々とも離れるということで

 お世話役にも世話を焼き返す機会が失われ
 親しい旅の仲間たちとも別れ

 伴れのもとから離れる

そういうことなのです


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こわい。

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どうやらこの「こわい」はじぶんだけが抱いたわけではなく
この地のある人々は「帰る」話題に触れるのを避けているようでしたし
みずから帰ろうとするある旅人を、必死で止めるのが正しい行いだと信じている人々もいました
そんな様子を見ていたためか
「帰る」のはまるでとてもいけないことのような気がしてきて

「帰る」と聞くと
どことなくいやあな気分になったし

誰かが「帰った」のだと聞くと
悲しまなければならない決まり、があるようでした

じぶんや伴れが帰る
そのときは
どちらかがトリノコサレルことを意味しているようでした

  せめて確かなモノを遺しておかなければ…
  この地で旅をした証を遺しておかなければ…


旅人はがむしゃらに旅をしました
足を前へ前へと運び
一心不乱

毛穴という毛穴から汗を吹きださせ
あそこに天まで届く塔を建てると聞けばリーダーをかってでて
材料が足りないとなれば石切り場まで出かけてゆきました
石を一段、積み上げるごとに
ほっとするのでした

塔はというと
地面に立った人が首をうんと伸ばし、あごを上げ、まぶたもうんと開いて
やっとてっぺんが視界に入るほどに高くなりました







ふるさとがどんなに居心地がよかったのか
なんのために旅に出たのか
すっかり
そう。
ほんとうにすっかり忘れてしまった旅人は

あるとき
この旅に出発してからずっと背負ってきた
バックパックの内側に小さなポケットがあるのを発見しました

貴重品をしまっておくジッパー付きのポケットです

そのポケットのジッパーを開き
指を探らせ出てきたのは
うす汚れた、でも白い紙とわかる幅5cmくらいの代物で
親指と人差し指とでていねいにしわをのばし
そうっと広げ
印字がされているのが確認できました

  ==== == ==== 様
  便名 ==== ===
  搭乗日 ====年 ==月 ==日
  === 発 →  === 着



くしゃよれな”帰り”のチケットでした



A TRIP 4 へつづく

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